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大阪地方裁判所 昭和48年(わ)2215号 判決 1974年6月06日

主文

被告人を懲役八月に処する。

未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。

押収してある改造拳銃一挺(昭和四八年押第七九六号の一)及び実砲五発(同号の二)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和四八年六月一三日、大阪市西成区津守町東二丁目七一番地の自宅において、法定の除外事由がないのに、回転弾倉式拳銃一挺(昭和四八年押第七九六号の一)及び口径〇・三インチ、トルナード鋲打銃用実包を改造した実包五発(同号の二)を所持し、

第二、同年同月一四日午前一〇時過頃、大阪府八尾市桂町一丁目三二番地家重まゆみ(当二五才)方において、同人の妹で被告人の内妻である蔦井明美が被告人のもとより逃げ出したことから、右家重まゆみが右内妻をかくまっているものと邪推して、その所在を追求するにつき、右家重まゆみに対し、故意に所携の実包(拳銃弾)一発を面前に落し、腰に差しはさんだ発射機能を欠くも実物の改造拳銃(昭和四八年押第七九六号の三、但し暴力行為等処罰に関する法律一条の兇器に該当しない。)をちらつかせて、これらの携帯を見せつけ、「明美を隠しているやろ。人をなめたことをしたらあかんで。」等と申し向け、同人の応対によっては、同人の身体に危害を加えかねない旨暗に告知して、同人を脅迫したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(確定裁判)

被告人は、昭和四八年六月六日大阪地方裁判所で恐喝及び恐喝未遂罪により懲役一年四月(四年間執行猶予、保護観察)に処せられ、この裁判は同月二一日に確定したもので、右事実は、被告人の当公判廷における供述と右裁判の調書判決謄本及び検察事務官作成の昭和四八年九月一四日付前科調書によって認められる。

(法令の適用)

一、判示所為につき、

第一  拳銃所持の点 銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二一号、三条一項

実包所持の点 火薬類取締法五九条二号、二一条

第二  刑法二二二条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号

二、判示第一の各罪の観念的競合につき、刑法五四条一項前段、一〇条

(以上各罪につきいずれも懲役刑選択)

三、併合罪関係につき、刑法四五条前、後段、五〇条、四七条本文、一〇条

四、未決勾留日数の算入につき、刑法二一条

五、没収につき、刑法一九条一項一号、二項本文(判示第一の罪に関して)

六、訴訟費用につき、刑事訴訟法一八一条一項但書

(争点の判断)

昭和四八年六月二七日起訴状の公訴事実(判示第二の犯行関係)に関する争点についての判断を摘記する。

一、訴因の特定について

弁護人は、右公訴事実中に「拳銃を示し」とあることにつき、検察官はその拳銃を押収にかかる昭和四八年押第七九六号の一又は三のいずれかの拳銃であると釈明したが、この釈明によると訴因の特定を欠くことになると主張する。しかし、右公訴事実は、一定の日時、場所において、特定人に対し兇器たる拳銃を示して脅迫したと言うのであって、検察官においてその拳銃を前記二挺のいずれかとしか特定できなくても、暴力行為等処罰に関する法律一条の兇器を示しての脅迫の訴因としては、他の訴因を構成する事実と区別ができ、審判の対象の特定に欠けることはなく、また被告人の防禦に著しい支障をきたすとも考えられないので、訴因の特定に欠けるところはない。

二、右公訴事実にそう犯罪の成否について

(一)  ≪証拠省略≫によれば、被告人は前示のように家重まゆみに対し、押収にかかる昭和四八年押第七九六号の三の拳銃を示したものと認定すべきである。被告人は、公判審理の途中からいずれの拳銃をも現場に携行していないと述べて、右公訴事実中拳銃を示したとの点を否認しているが、≪証拠省略≫に照らすと、被告人の右否認の供述は信用できず、被告人は現場に拳銃を携行し、家重まゆみにこれを示したものと認められる。そして、≪証拠省略≫を併せ考えると、右の被告人が携行した拳銃は、押収してある二挺のうちの昭和四八年押第七九六号の三の拳銃であったと認められる。この点につき、家重まゆみは、前記各供述調書及び証言を通じて、右拳銃が回転弾倉式拳銃であったと右認定に反する供述をしているが、≪証拠省略≫に徴し、かつ、前記現場における右家重の拳銃の現認が、被告人において腰に差しはさんだままか、ないしは腰もとで手に持った状態のもとでのことであったと認められるのと、右家重にはかつて被告人の住居で被告人が廻転弾倉式拳銃を持っているのを見せつけられた事実があって、その先入観の存在が疑われることに鑑みると、右家重の各供述中拳銃の識別に関する部分は、にわかに信用できない。

(二)  被告人の右携行にかかる昭和四八年押第七九六号の三の拳銃は、暴力行為等処罰に関する法律一条に言う兇器に該らないものと認める。≪証拠省略≫によると、右拳銃は当時から弾丸発射機能を欠いていたことが明らかであって、銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の場合と異り、本件においては犯行時点においての兇器性が問題なのであるから、右拳銃は、通常の手入又は修理により発射機能を備え得るか否かにかかわらず、拳銃としていわゆる性質上の兇器に該らない。また、検察官は、右拳銃がいわゆる用法上の兇器に該るとも主張するが、右拳銃で人を殴打して傷害を負わすことは可能であるにしても、右拳銃を殴打の動作等を伴わずに前記認定のように示しただけでは、通常本来の用法による危険はともかく、右のような用法による身体傷害の危険を人に感じさせるとは認め難いから、前記認定状況のもとでは、右拳銃は用法上の兇器にも該らない。(もっとも、判示のように、右拳銃は、或る種の状況のもとで人にこれを示すだけで、人を脅迫する用具になる。)

(三)  数人共同しての脅迫は、証拠上認められない。この点について、右公訴事実は「被告人は、ほか二名と共謀のうえ、数人共同して脅迫したものである。」と言うのであるが、前掲各証拠によると、右の「ほか二名」とは山下純一郎と岡村康生を指すものとうかがえるところ、先ず、事前に被告人と右両名との間に家重まゆみに対する脅迫の共謀があったと認めるに足る証拠はない。そして、前記認定の被告人の脅迫罪も、判示のような拳銃や実包の携帯を示すことがなく、その余の言動にとどまっていたならば、その罪の認定を躊躇せざるを得ないものと考えられるところ、右山下純一郎及び岡村康生が当時被告人の右拳銃や実包の携帯を認識していたと認めるべき確証はないし、同人等が前記家重に対し右公訴事実に記載の「正直に言うたりいな。今のうちやったら事を荒立てんでもすむ。」との趣旨のことを申し向けたことは、ほぼ証拠上認められるが、この文言と被告人の拳銃、実包の携帯の点を除く言動を併せても、これが当時の状況下で右家重を畏怖させるに足る脅迫行為に該ると認定するには躊躇せざるを得ない。その他に、右山下純一郎及び岡村康生が脅迫にわたる言動や態度に出たと認めるに足る確証はない。そうすると、右山下純一郎及び岡村康生との現場共謀による共同脅迫についてもその証明がない。

(裁判官 米田俊昭)

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